2013年7月4日木曜日

種類株式の評価方法〜米国AICPA報告の考え方


米国AICPA(会計士協会)では、米国で生じたCheapStock問題(*)に端を発し、2004年に、非公開企業が発行する優先株式(ひいては普通株式)の公正な評価額の算定にかかる実務対応報告を公表しています。
(「CheapStock問題」とは、普通株式の評価を直近の種類株式の発行価格の10%程度に設定することによって、経営陣がお手盛り的に、より有利なストックオプションを設定する問題のこと)

報告書では、4つの方法が示されておりますが、いずれも「優先株式に付与された経済的権利及び支配に関する権利に基づいて、企業価値を優先株式と普通株式に配分する」という考え方が採用されております。
ここでは、参考までに、よりシンプルなケースでの評価プロセスを示してみたいと思います。

1.OPM  (Option Pricing Method)

この方法は、端的にいえば「種類株式の経済的な要素を、オプション価値に分解することにより評価する方法」といえると思います。
例えば、次のようなシンプルなケースを考えてみます。

企業価値 10億円 (増資後評価額)
普通株式 100株 (創業経営者が保有)
種類株式 100株 (VCが6億円投資)
種類株式の権利としては、以下の2点
・種類株式は1株あたり普通株式1株に転換できる
・解散やM&A時には優先的に10億円まで回収(ただしそれを超えた部分には参加権なし)

リスクフリーレート  1%
期間         5年
ボラティリティ    85%
配当率        なし
原資産の時価     10億円
権利行使価格     ①ゼロ、②10億円、③20億円

上記条件より、まずは、ブラックショールズ式により通常のコール・オプション価格を算定します。

オプション時価    ①10億円、②6.7億円、③5.4億円

その上で、例えば、ゼロ〜10億円までの価値を示すオプションの価値は「権利行使価格ゼロの場合のオプション時価(マイナス)権利行使価格10億円の場合のオプション時価」として求めて、さらにそれを種類株か普通株の取り分に応じて分配を行います。
さらに、そのオプション価値を、各種の株式の取り分に応じて、配分します。(下表)

将来企業価値オプション価値種類株式の取り分普通株式の取り分
ゼロ〜10億円①-②=3.3億円100%なし
10億円〜20億円②-③=1.2億円なし(参加権なし)100%
20億円超③=5.4億円50%(株数按分)50%(株数按分)
価値合計     10億円(企業価値と同値)6億円4億円


このようにして按分計算を行うと、種類株式の価値は6億円、普通株式の価値は4億円として評価されました。つまり、議決権のレベルでは同数だとしても、種類株式は経済的な観点からは、普通株式の約1.5倍の価値があるというふうに考えられるわけです。

これを企業サイドからみると、今回の資金調達を普通株式で調達しようとすれば、議決権のコントロールを優先させると、必要な資金調達ができず、結果、事業としても中途半端なものとなってしまう可能性があったわけです。これを、種類株式として経済的な優先権を付与することによって、必要な資金を確保しつつ、議決権をコントロールできるというメリットが生まれたわけです。

また投資家サイドからみても、アップサイドの可能性は享受しつつ、ダウンサイドのリスクを極力減らすような設計ができており、双方のニーズに合致したストラクチャーとなったと言えるのかと思います。


2.PWERM (Probability-Weighted Expected Return Method)

次なる方法は、「加重期待収益法」とでも呼べる方法です。
資金調達後の各シナリオにおける企業価値想定額を発生確率でウェイト付けした上で、各種株主に分配し、積算する方法です。
オプション価値の総和と考えるOPM法と比べると、こちらのほうがシンプルで直感的にも理解しやすいかもしれません。

シナリオ企業価値発生確率ウェイト後
企業価値
種類株式の
取り分
普通株式の
取り分
IPO40億円10%4億円2億円2億円
M&A15億円40%6億円4億円2億円
倒産ゼロ50%ゼロゼロゼロ
価値合計


6億円4億円

(*本来は、各シナリオ実現までの時間的な価値を考慮すべきですが、単純化のため省略しております。)

3.HM (Hybrid Method)

上記のOPMとPWERMを組み合わせた「ハイブリッド法」です。
短期的に資金調達を行わないと、倒産することが想定される場合、短期的な倒産可能性にかかる価値(異常時の価値)をPWERMで捉えて、それを乗り越えた場合の価値(平時の価値)をOPMで測定するといったイメージです。
例えば、上記1の例で、短期的な倒産確率が50%あった場合、この方法によると、

シナリオ企業価値
オプション価値
発生確率ウェイト後
企業価値
種類株式の
取り分
普通株式の
取り分
倒産するゼロ50%ゼロゼロゼロ
倒産しない10億円50%5億円3億円2億円
価値合計


3億円2億円

となるわけです。

(*本来は、各シナリオ実現までの時間的な価値を考慮すべきですが、単純化のため省略しております。)

4.CVM (Current Value Method)

「現状価値法」とでもいえる方法で、現状の企業価値を基礎として、それをそのまま種類株式、普通株式に配分していく方法です。
上記1の例で、仮に種類株式の発行直後に、10億円での買収提案があった場合においては、10億円の企業価値は、そのまま種類株式に配分されますので、評価としては、種類株式10億円、普通株式ゼロとなるわけです。
この方法は、上記1〜3の方法とは異なり、継続企業を前提としない評価方法といえるかもしれません。

上記1〜4の方法を踏まえて、日本の実務ではどのように捉えたらよいか?、改めて検討してみたいと思います。

(参考とした資料:経済産業省「平成23年度ベンチャー企業における発行種類株の価値算定モデルに関する調査報告書」)